ブックレビュー「キャリア教育のウソ」

話題になっていた本「キャリア教育のウソ」を読みました。



まず、全体として非常に読みやすく理解しやすい本でした。
小難しくなく一気に読めるので、本を普段読まない人にも、内容的に興味があったらおススメしたい本です。

そんなことやっているんだ!という驚き

中学生のほぼ100%が「職業体験」したり、具体的なキャリアプラン立てさせたりしているとか、ぜんぜん知りませんでした。
主に大学での就職活動がらみの事情やそこで言われている「キャリア教育」は、多少見聞きする機会もあったのですが、義務教育のうちからそんなに進んでいるとは、お恥ずかしい話知りませんでした。

筆者の意見に全面的に賛同

筆者の書いていることには、全面的に賛同でき、納得感を持ちながら読むことができました。「やりたいこと至上主義」「正社員信仰」などへの疑念も納得です。

この本の位置づけは「問題提起」まで

実はこの本を読んだのは1週間ほど前でした。読み終えて、納得感はあるものの何かすっきりしない部分があり、すぐにレビューが書けませんでした。それは、この本の位置づけが「問題提起」までで終わっていること。
筆者はあえて(?)、「解決策の提示」ではなく「問題提起」をしているのだと思うので、この本として内容不十分ということではありません。まちがいなく「良書」です。ただ、「では筆者として、具体的にどうしたら良くなると思うのか」を聞きたいな、というのが読み終えた直後の正直な感想でした。ぜひ続刊でそこら辺を書いていただきたいものです。

けっきょく、“今の”キャリア教育の意味はないのか?

この本の刺激的なタイトルや、各種レビューを表面上だけみていると「なんだ、今までのキャリア教育って意味なかったのか。ダメじゃん。」と短絡的に感じてしまう人が多くなりそうな懸念があります。

ただ、そこは私としては、反論してみたいと思います。
熱心な「キャリア教育」を受けずにオトナになった自分の意見として。

中学生がキャリアプランを書くことは、意味がないのか?

確かに私も中学生のときに、書けと言われても、なんとなく周りを見て正解っぽいことを適当に書いていたと思います。ほとんどの生徒が、まじめに真剣に考えることはないでしょう。むしろ中学生の多感な時期であれば、「クラスで浮かないための“無難な”模範解答を書く」のが大多数でしょう。
ただそれでも、真剣ではなくても、あえて嘘を書いていたとしても「1回キャリアプランを考える真似事をしてみた」ことは後に大きく意味をもってくると思います。

私は、学生時代はキャリアプランなど一度も考えたこともなく社会人になりました。
はじめて考えるキッカケがあったのは、ある出版社様からいただいた「お金」に関するデジタル教材の制作をしているときでした。そのときは「お金」の観点からですが、キャリアプランをたて、そこでかかるお金を計算するようなシミュレーションを作成しました。
そこではじめて気づきました。「ちゃんと考えていかないといけないぞ」ということに。

学生のとき学ぶことなんて、ぶっちゃけていうと、そこで「必要か必要じゃないか」なんてことは分かりません。言われたからやっているだけです。でもオトナになって、どこかのタイミングで「あ、これ役にたってるかも」と思うことが、膨大に学んだ中の一角にでてくるものだと思います。
そういう意味で「一度やってみたことがある」ことに、教育的な意味はあるものだと思います。

正社員信仰は悪なのか?

著者は、「どんなに頑張っても、正社員になれない人が一定割合いる」だから「正社員になることだけでなく、なれなかったときの対策も」と訴えています。これは完全に同意します。

ただその上で「正社員信仰」を否定しなくてもよいのでは、と思います。

現在の社会構造においては、非正規雇用がなくなることはありません。非正規雇用がダメとか格下だということはありません。むしろ、現在の社会構造の中で無くてはならない必要な存在です。
ただ一方で、「個人」のキャリア形成を考えた時に、ある職に就き、その職の技能や経験を高めたいと思ったならば、迷わず「非正規雇用」ではなく「正規雇用」を目指すべきです。
それは、正規雇用と非正規雇用を比べたら、そこで得られる経験は雲泥の差だからです。

世の中にはいろいろ自分に都合の良いことをいう人もいますが・・・
私は、雇う側の人間として100%断言できます。
おなじ職で正規雇用と非正規雇用があるなら、迷わず正規雇用を選ぶべきです。すがって固執してもよいレベルです。

それでも、正規雇用にありつけなかったら・・・
それは、この弱肉強食の社会の中で、その時点で「負け組(=弱者)」になってしまったことを認めるべきです。「負け組(=弱者)」になってしまった。そしたら、そこからどう這い上がって「勝ち組(=強者)」になるかを考えるべきです。なぜ負けてしまったのか?どうしたら勝てるのかを考えてまた立ち向かうのです。そこで「しょうがないよね」と思っていたら、厳しいですが、一生負け組です。社会構造の問題でも経済の問題でも何でもありません。自分自身の問題です。

ただ、働き方・働く意味は多様化しています。
すべての人が「お金を稼ぐ職=自分のキャリアプランの中心」というわけではありません。非正規雇用という形で働くことで、他のやりたいことに時間を使える、非正規雇用という形態があるから働ける、という人もたくさんいます。そういう人は、非正規雇用を積極的に選択すればよいのだと思います。

多様化するキャリア形態・激動する社会の中でどう生きるのか

反論っぽいことを書きましたが、おそらく私の考えは筆者とおなじだと認識してます(違ったらすみません)。短絡的に言葉尻だけをみて「反対極論」を考える人も多そうだな、と思い、あえて反論っぽくかいてみました。

結局のところ、キャリア形態は多様化しています。
同時に、社会も日々変化し、グローバル化し、弱肉強食の様相はますます強くなります。

他人より名の知れた会社に入ること・年収が多いことだけが「勝ち組」ではありません。
だた、個々人の価値観において「自分は人生勝ち組だぜ」と言えるよう、厳しい競争社会の中で生き抜いていくことが必要です。

成功する人・失敗する人、楽しそうな人・つまらなそうな人、いろんなオトナのいろんな「生き方」を自分の目でみて・自分で感じて、多様な選択肢がある中で、どう生きていきたいか?を考えていけばいいのだと思います。

いつ「やりたいこと」「自分なりの生き方」を見つけられるか分かりません。
私と同じ30代になって、まだ方向性を見つけられていない人も多く居ます。
学生のうちに本当に見つけられるのは少数派かもしれません。
でも、早くに見つけられるなら、それに越したことはありません。

それを考えるきっかけを学生のうちに得られる「キャリア教育」というのは、意味があると思うのです。一握りかもしれませんが、そこで自分の人生の方向性も見つける子もいるでしょう。

筆者が提言しているとおり、きっと今の形がベストではなくデメリットも含んでいるのだと思いますが、私見としては、やらないより、やるメリットの方が大きいだろうと思います。
単純に、そのようなチャンスが与えられた若い人はうらやましいです。


というところで、長文になりましたが、このへんで。